【本日は雑談です。】

おはようございます。

本日は、今から10年ほど前のお話をしようと思います。

その頃私は大学生で一人暮らしをしておりました。

当時私は、インターンシップを活用して不動産屋で働いておりました。(アルバイトみたいなものです。)

幼馴染から引越しをしたいとの相談を受けておりましたので、それはタイミングが最高だと、物件を幼馴染に紹介し、半ば強引に私が住んでいたところの隣の駅に住まわせました。

(結果的には、その幼馴染は喜んでいたハズ?!です。)

引越しを手伝っていたところ、彼が不意に私が当時使っていたコタツが欲しいと言ってきました。

コタツのせいで部屋が狭くなっていると感じていた私は二つ返事で了承し、彼が使っていたコタツよりも2まわり程度小さい机(ちゃぶ台みたいなものです。)と交換することになりました。

コタツは私の家からレンタカーで運んだのですが、引越し作業が大幅に遅れてしまい、私の家まで机を運ぶ前にレンタカーを返却しなくてはならない事になりました。

日もトップリと暮れ、いつもなら電車で帰るのですが、机も脚を畳んでいるとはいえ、小脇に抱えたまま電車に乗るのは恥ずかしいということで、リッチにタクシーに乗って家路につこうと考えました。

机を小脇に抱えたまま、タクシーを停め、乗車しました。

2?3分経ったころに、50代くらいの運転手さんが「良いの、描けました?」と唐突に聞いてきました。

私が、「ハッ??」と言いルームミラー越しに運転手さんのお顔を見ると、優しそうな目でにっこり笑いかけながら話続けました。

「いや、私もね、若い頃にお客さんみたいに良く描いたのよ。」

私がルームミラー越しに要領をえない顔をしていると、「お客さんが抱えているのは画板(がばん)でしょう?」と・・・・。

そのときの私の服装は、手塚治虫大先生ばりのベレー帽に汚いジーンズとレーヨンシャツで引越しの手伝いでついた汚れが点々とありました。

しかし、長方形のちゃぶ台抱えてるのを画板と見間違い、『ベレー帽+汚れのついた汚い格好+画板』=『絵描き』の方程式が運転手さんの頭の中で完成されているとは夢にも思いませんでした。

私は、「これは、ちゃぶ台ですよ。引越しの手伝いでもらったんです。」と何回も言おうと思ったのですが、おじさんがあまりにも幸せそうに昔の自分とリンクさせて「私は、風景は苦手で、もっぱら人物をね描いていたんですよ。お客さんは風景でしょ?」と言われた時に「ええ、そうです。」と答えてしまっている自分にびっくりしました。

そこから家路までは、多少の罪悪感を感じながら、運転手さんの専門的な質問にも無難に答えていました。

「絵で、飯が食えなくってね。カミさんにも随分迷惑掛けたから、絵描くの辞めてね。この仕事やって個人タクシーになったのよ。」と個人情報保護法もビックリのお話までして頂きました。

住んでいたマンションに近づくに従って、私は考えていました。

どうすればおじさんにバレずに降りることができるのか?をです。

おじさんが画板だと思っているモノはちゃぶ台ですから、裏側を見られてしまうとちゃぶ台の脚が折りたたまれているのがわかり、きっとおじさんは「俺は、ちゃぶ台を画板と見間違った上にこのお客さんを勝手に絵描きに仕立て上げ、自分の思い出話しちゃったのか??恥ずかしい!!!」と思うだろうな。と考え、タクシーから降りるときに運転手さんにはちゃぶ台の裏側が絶対に見られないように、細心の注意を払って降りました。

そして運転手さんが発進するまでの間、タクシーのドアの横にちゃぶ台を抱えたまま立っていました。

運転手さんは私に目で挨拶をして、車を発進させました。(なんだか、とても嬉しそうでした。)

私は、ウソをつきましたが、とても暖かい気持ちでマンションのドアを開けました。